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分子一滴で音聲認識― マテリアルから知能を引き出す! ―

更新日:2021.09.22

分子一滴で音聲認識

マテリアルから知能を引き出す!

ポイント

  • 有機分子※1のランダムネットワークを作製し、音聲認識※2などの時間情報処理を高性能で実現
  • これまでニューラルネットワーク※3の物理デバイス化において、豊富な電気化學反応※4を持つ有機分子は十分に活用されていなかった
  • 本研究の成果はニューラルネットワークにおける計算を有機分子ナノ材料を用いて再現したといえ、次世代の人工知能デバイスの開発に大きく寄與すると期待


■ 概要

九州工業大學大學院生命體工學研究科の宇佐美雄生助教(大阪大學大學院理學研究科招へい研究員)、大阪大學大學院理學研究科の松本卓也教授、オランダ?Twente大學ナノテクノロジー研究所のWilfred van der Wiel教授、九州工業大學大學院生命體工學研究科?ニューロモルフィックAIハードウェア研究センター長の田中啓文教授らの研究グループは、溶液を滴下するだけの簡便な手法で導電性高分子※5の一種である水溶性ポリアニリン(SPAN)のランダムネットワークを作製し、濕気のある環境下で酸化還元現象に由來するヒステリシス電気特性※6の電気化學反応が現れることを明らかにしました。また、ニューラルネットワークの一種である物理リザバー計算※7をSPANのネットワークで動作させることで0から9までの音聲認識を実現し(図1)、超低消費電力計算やAIロボットへの組み込みなど、次世代の人工知能システムを構成するデバイスとして期待できることを示しました。


図1 水溶性ポリアニリンネットワークを用いた音聲認識


これまで人間の脳の構成要素をまねたニューラルネットワークのデバイス開発において、豊富な電気化學反応を持つ有機分子は十分に活用されていませんでした。本研究の成果は、ニューラルネットワークの計算方法を有機分子ナノ材料を用いて再現したといえ、有機分子ネットワーク自體が高密度で小型の人工知能となりうる可能性を示しており、ナノ分子科學と情報科學にまたがる新しい學際的な學術分野の開拓に大きく寄與すると期待されます。

本研究成果は2021年9月17日(金)(日本時間)にドイツ科學誌「Advanced Materials (Wiley)」にオンライン掲載されました。


■ 研究の背景

近年、人工知能は目覚ましい進歩を遂げており、基礎研究から産業応用に至る広い分野で活用されています。第3次人工知能ブームとも言われるこの潮流の根幹となる技術が、脳の構成要素を単純化したモデルであるニューラルネットワークを用いた學習システムです。このシステムは主に既存のコンピュータ上でプログラムによって制御される「ソフトウェア」として動作しています。しかしながらこれらのシステムを用いて高性能の情報処理を行うためには、大規模なネットワークをソフトウェア上に構築する必要があるため、消費電力量が増大してしまう問題が発生しています。

一方、材料?デバイス工學の分野においては、物質や電子回路、光素子など計算機となりうる構成要素を組み合わせることで、ニューラルネットワークにおける計算の仕組みを脳型回路やデバイスに組み込み、省電力で情報処理を行わせる試み(ハードウェア化)が検討されています。既存のデバイスや回路の組み合わせではこのような新しい枠組みに適さず、省電力で情報処理を行うことができません。その中で最も注目を集めているのが、物理リザバー計算です。物理リザバー計算では従來のニューラルネットワークのように計算処理を層ごとに行わず、デバイスの持つ物理特性を用いて計算を行うため、ソフトロボット、レーザー、量子ドット、ナノ材料など、様々な物理系を適用することができます。しかしながら、これまで物理リザバー計算で検討されてきた候補は大規模なものが多く、AIロボットやスマートフォンなどのデバイスの応用先への組み込みが難しいという課題がありました。


■ 研究の內容

本研究では、SPAN水溶液を滴下、乾燥させるだけの簡便な方法により、高密度かつランダムなナノ材料ネットワークを作製しました。(図2a)このネットワークを図1に示す多電極間に形成させデバイスを作製し、電流ー電圧特性を調べたところ、濕度の上昇に伴い電流値が上昇し、ヒステリシスな電気特性が得られることを発見しました。(図2b)この結果は、大気中の濕気の影響でSPANの酸化還元反応が促進されたためと考えられます。さらに入出力間の応答の関係性を調べたところ、出力電極を変えることで応答性が変化することが明らかとなりました。(図2c)この結果は、電極とネットワークの界面における電気化學反応やネットワークの電荷輸送経路が電極ごとに異なるためと考えられます。


図2 a. SPANネットワークのAFM像。 b. 電流ー電圧特性。 c. 入力電圧と出力電圧の関係。


上記のような出力応答の違いを利用して上手く足し合わせ、物理リザバー計算を行うことで、目的に応じた學習結果を得ることが可能です。図3aはSPANネットワークを用いて物理リザバーとして音聲認識を行わせる方法を示しています。SPANネットワークの內部を音聲信號が走りまわることで、電極ごとに信號の形が異なる音聲を得ることができます。それらを足し合わせて各出力信號に共通する”one”という情報を取り出すことで、SPANネットワークを使って音聲認識を行うことができるのです。図3bは、0から9までの數字音聲の分類結果を混同行列と呼ばれる表にまとめたもので、対角の色が濃くなるほど正答率が高くなります。ここでは7割近くの音聲を正しく分類することができました。以上の結果から、SPANネットワークを物理リザバー計算に用いて、時間情報処理を実現しました。


図3 a. SPANネットワークを用いた物理リザバーによる音聲認識の原理。 赤矢印のようにネットワーク內を信號が走り回った結果の出力を足し合わせて認識する。b. 數字音聲認識の結果。表中の數字は分子が聞き取った數字の割合を各數字ごとに示す。


■ 本研究成果が社會に與える影響(本研究成果の意義)

本研究の意義は、有機分子ネットワークの電気化學反応を用いて情報処理を実現したことです。生物の脳においても、神経回路で有機分子のネットワークが形成されており、電気化學反応を用いて信號伝達が行われています。本研究成果によって、低消費電力かつ自律して動作する脳の機能を獲得した次世代デバイスの創製およびAIシステムへの実裝が期待されます。


■ 特記事項

本研究成果は、2021年9月17日(金)(日本時間)にドイツ科學誌「Advanced Materials (Wiley)」にオンライン掲載されました。


タイトル “In-materio reservoir computing in a sulfonated polyaniline network”
著者名 Yuki Usami, Bram van de Ven, Dilu G. Mathew, Tao Chen, Takumi Kotooka, Yuya Kawashima, Yuichiro Tanaka, Yoichi Otsuka, Hiroshi Ohoyama, Hakaru Tamukoh, Hirofumi Tanaka, Wilfred G. van der Wiel, Takuya Matsumoto
雑誌 ドイツ科學誌「Advanced Materials (Wiley)」
DOI https://doi.org/10.1002/adma.202102688

なお、本研究は、日本學術振興會 科學研究費助成事業 No. JP25110014, JP24360011, JP16K13667, JP15K12109, JP18H01872, JP19KK0131, JP19K22114, JP19H02559, JP20K21819, JP20K22485, JP21K14527、文部科學省「ナノテクノロジープラットフォーム事業」の協力を得て行われました。


■ 用語説明

※1 有機分子
原子の構成要素に炭素を含み、2種類以上の原子から構成される物質。

※2 音聲認識
人間の聲などの発話された信號情報から、音聲の意味をとらえて文字に変換したり、音聲の特徴から発話した人物の性別、年齢、感情等を判別する処理。

※3 ニューラルネットワーク
脳の構成要素である神経細胞とそれらをつなぐシナプスを単純化したモデル。一般的に複數の層を持つ。音聲などの情報を入力すると、入力情報をもとに計算を層ごとに逐次行い、最終結果が算出される。近年注目されているディープラーニングはニューラルネットワークの一種であり、計算を行う層を増やして多層化したものである。

※4 電気化學反応
電気化學とは物質の化學変化と電気的な現象の関係を検討する化學の學問分野の一つである。電気化學反応とは化學反応で生じるエネルギーを電気エネルギーに変換する反応のことである。電池や電気分解などの反応が該當する。

※5 導電性高分子
電気伝導性の高い高分子の総稱。一般的には「電気を通すプラスチック」として知られている。導電性高分子を世界で初めて発見したのは日本の白川英樹博士であり、この業績により2000年にノーベル化學賞を受賞した。

※6 ヒステリシス電気特性
ヒステリシスとは物質の狀態が、現在だけでなく過去に受けてきた狀態変化の影響を受ける現象のこと。電気特性の場合、同じ電圧値が物質に與えられても掃引方向によって電流値が大きく異なる現象をさす。

※7 物理リザバー計算
最近注目を集めているニューラルネットワークの一種。リザバーは「ため池」という意味である。入力層、中間層、出力層の3層で構成されている。中間層では入力の時間情報を異なる時間情報へと変換する役割を擔い、計算は中間層と出力層の間でのみ行う。中間層は計算過程で変化させず固定であり、コンピュータ上のプログラムで緻密に制御する必要がない。そのため、物質、光、スピン、ロボットなど入力信號を非線形変換できる物理系を用いてリザバー計算が実現できる。物理系を中間層に用いるリザバー計算は「物理リザバー計算」と総稱されている。


【宇佐美雄生招へい研究員のコメント】
本研究は、水溶性ポリアニリンのデバイス作製、電気化學現象から物理リザバー計算の性能評価の検討に至る學際的な內容です。ナノ分子科學、材料科學、情報科學など異なる専門分野を持つ共同研究者の皆様の協力で本成果を得ることができました。本研究成果によって次世代人工知能のデバイス開発が推進することを期待いたします。


■ SDGs目標




プレスリリース本文はこちら


【本件に関するお問い合わせ先】
<研究に関すること>
 九州工業大學 大學院生命體工學研究科 人間知能システム工學専攻
 助教 宇佐美 雄生(うさみ ゆうき)
 (大阪大學 大學院理學研究科 化學専攻 招へい研究員)
 TEL&FAX: 093-695-6158(九州工業大學)
 E-mail: usami*brain.kyutech.ac.jp(九州工業大學)

 大阪大學 大學院理學研究科 化學専攻
 教授 松本 卓也(まつもと たくや)
 TEL:06-6850-5400
 FAX: 06-6850-5403
 E-mail: matsumoto-t*chem.sci.osaka-u.ac.jp

 オランダ Twente大學 ナノテクノロジー研究所?Brain-Inspired Nano Systemsセンター
 教授?センター統括 Wilfred van der Wiel(ウィルフレッド ファン デル ヴィエール)
 TEL:+31-(0)6-3018-2641
 E-mail: w.g.vanderwiel*utwente.nl

 九州工業大學 大學院生命體工學研究科?ニューロモルフィックAIハードウェア研究センター
 教授?センター長 田中 啓文(たなか ひろふみ)
 TEL&FAX:093-695-6157
 E-mail: tanaka*brain.kyutech.ac.jp

<広報?報道に関すること>
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 E-mail: ri-syomu*office.osaka-u.ac.jp

 九州工業大學 総務課広報企畫係
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